プァルラグを倒した俺達は、食事休憩をする事になったのだが、ランデルから待ったがかかった。
プァルラグの肉は野生味が強いので、個性を活かすには鍋にするのが一番らしい。 ベースのスープにマロミスという調味料を使うと格別な美味しさになるという。 この近くにはヨランザの街があり、調理役の兵士がプァルラグを解体している間に少人数で買い出しに行くというのがランデルの提案だ。俺としては、持てるだけの肉塊を街に運んで、店に調理をお願いしたかった。
みんなで街に行けば宿に泊まれるからだ。 しかし、ナタリアに美味しいプァルラグ鍋を食べさせたいと張り切っていたランデルを見たら何も言えなかった。 ランデルと名乗りを上げた騎馬兵五人がヨランザの街に行くことになったが、やりたい事があったので俺、アル、ナタリアも加えてもらった。 御者も合わせた馬車組と騎馬兵の計十人で買い出しに向かう。「拠点の指揮はノイマンに任せる! では出発じゃ!」
馬車が行軍時より少し速い速度で走り始めた。
少し先にある脇道に入って数キロ進めばヨランザの街があるらしい。「ねえ、パパっ? どうして急に街に行きたくなったんですかっ?」
「にゃちゃりあにょふきゅをきゃっちぇおきょうちょおみょっちぇにぇ。おりぇやありゅにょびゅんみょひちゅようぢゃりょ?」
※ナタリアの服を買おうと思ってね。俺やアルの分も必要だろ?騎士がナタリアの服を作ってくれているとはいえ、お洒落をしたい年頃の子には物足りなさを感じるだろう。
俺もこの世界に来てからずっと同じ服装だしな。 夜営の時に魔法使いが水魔法と風魔法で洗濯してくれるのだが、毎日同じ服というのは生活のリズム的に精神衛生上良くないと思う。「わあっ、新しい服を買ってくれるの! ダディありがとう!」
「パパっ! ありがとうございますっ!」
まるで馬車の中に花が咲いたかのようだ。
可愛い娘と美人な妻の喜ぶ姿がこれほど良いものとは。 嬉しさと誇らしさの中にむず痒い気持ちがある。「パパっ! ちょっと来て下さいっ!」 試着室の方からアルの声がする。 振り向くと、アルがカーテンの隙間から顔を半分だけ覗かせていた。「どうでしょう?」 カーテンが開くと、美しい天女が現れた。 絵画の中から飛び出して来たのだろうか。 胸元までが灰色で、そこから下が黒色の袖がないニットだ。 首元はタートルネックになっており、丸出しの腕が艶かしい。 破壊力抜群な暗色の服がピンク色のウェーブがかった髪を際立たせている。 下はタイトなベージュのパンツで、スラリとした脚線美が強調されている。コメ:勇太さん、これ買いです!【二万円】 コメ:可愛すぎて一瞬気を失ったわw【一万円】 コメ:アルたそ似合いすぎ!【二万円】「きゃいみゃしゅ!」 ※買います! 何を迷う必要があろうか。 こんなもん買いでしかない。「ダディ、どっちがいいかな? 大きくなったら着る服なんだけど……」 天使が二択を迫ってきた。 一つは袖と胸元に白いレースのフリルがついた可愛らしい薄いピンク色のワンピース。 一つは襟の無い赤いシャツと黒いレザーのスカートという大人びたセクシーな組み合わせだ。 成長したナタリアの姿を想像しながら選ばなければならない。 どっちが似合うかと問われた時の回答に正解は無いが、世の男達にとって永遠の課題である。 無難なのは、ナタリアがどっちが好きかを聞いて、俺もそっちが好きと答える安定パターンなのだが。勇太:みんな、力を貸してくれ! コメ:ワンピースは白いの買ったから赤い方かなぁ? コメ:どっちも買うのが男だぞ! コメ:お前ら大丈夫か? 可愛い系とセクシー系のどっちに成長するかの重要な分岐だぞここ。ちなピンク一択! コメ:ギャルゲー脳は帰ってどうぞw コメ:俺もどっちも派。 コメ:俺達の勇太はどこに行っちまったんだ? 脳なしのお前は何も考えずにここまで来たんだろ! 迷う前に買え! 勇太:そうでした……。俺
ファッションショーから五日が経過した。 ナタリアは少し背が伸びたくらいで、今までのような異常な成長は見られない。 今日のナタリアは白いワンピースを着ている。 兵士に三つ編みのやり方を教わったらしく、色々と工夫を重ねた結果、右耳の上あたりからふんわりと編み始めて横に流したサイドテールになっている。 清楚で上品なお嬢様の出来上がりだ。 アルも先日購入したセクシーニットの組み合わせだ。 ナタリアに三つ編みにされたらしく、ナタリアと逆方向のサイドテールになっている。 アルの膝上に横向きで座っているナタリアと楽しそうに会話しているアルを見ると、歳の離れた姉妹に見える。 歳といえば、二日前にナタリアの成長は普通なのかと聞いてみた。 ランデルは、早すぎると言っていた。 自分がナタリアと同じくらいの時は、友達の誰々とこんな遊びをしただのと昔話を始めた。 あまりにも長かったので口を封じて無理矢理やめさせた。 アルもナタリアと同じだったらしく、生後五日程で今のナタリアくらいまで成長したのだとか。 そこから一か月かけて大人になり、その姿を維持し続けているらしい。 気になったので年齢を聞いてみたのだが、教えてもらえなかった。 俺より年上とだけ知る事が出来た。 ランデルは、「ワシよりは年下ですかな?」と聞いた瞬間に平手打ちされていた。 アルの動きがあまりにも速く、パシィンという乾いた音しか聞こえなかったのだが、ランデルの左頬に真っ赤な紅葉が浮かび上がったので分かったというのが正しい。 日本では女性に聞いてはいけない事ランキング一位の質問なので、ランデルの左顔面が骨折したかのように腫れあがったのも仕方がないのかもしれない。 翌日には元通りのイカつい顔に戻っていたが。 馬車は森を抜けて高原地帯を走っている。 丈の短い雑草に覆われた大地は緩やかに起伏しており、所々に岩が露出している。 路面は段々と荒れてきて、馬車の揺れがお尻の皮膚を削り取ってくる。 尾てい骨と腰が悲鳴を上げ始めた。 そう
「よし、準備が整ったな! それでは、予定通り見張りは待機地点に移動せよ! ワシらもすぐに出るぞ!」 ランデルの指示で馬車と兵士が移動を始めた。 残った五十人程で四天王を探すようだ。 俺が混ざるはずだった部隊が遠ざかっていく。「いや、ちょっちょみゃちぇ! おりぇもちゃいきぎゅみにひゃいりゅ!」※いや、ちょっと待て! 俺も待機組に入る!「王から褒美を貰った時に、ワシとユートルディス殿でネフィスアルバを倒しに行けと命じられておりましたので、てっきり一緒に行くものかと。もう無理ですぞ?」 無理ですぞじゃないんだが。 予定通りって事は、事前に作戦を考えていたんだよね? 何で作戦会議に勇者を誘わないんだろうか。勇太:作戦失敗です。コメ:知ってたwコメ:勇太の作戦が成功するわけない。コメ:様式美で草コメ:ストレスゲージが真っ赤になってるぞ!w「ぎょひゃんはぢょうしゅりゅにょ?」※ご飯はどうするの?「三日前に立ち寄った村で携行食を買ったではありませんか。これ一枚で二日分の食料になりますので、五ヶ月は余裕を持って探索出来ますぞ?」 ランデルが懐から取り出したのは、クレジットカードくらいのビスケットに似た食べ物だった。 これをちびちび食べながら移動を続けるらしい。 兵士が背負っている大きなカバンの中には、この携行食とやらが大量に詰まっている。 水は山中の湧き水から補充する。 地獄のような登山計画に目眩がしてきた。 騎士が俺の剣と盾を持ってきてくれたが、受け取るつもりはない。「ねえ、ダディ……。もしかして、あの山に登るの? せっかく買ってもらった服が汚れちゃいそう。あたし行きたくないなぁ……」 駆け寄ってきたナタリアが今にも泣き出しそうな顔で見上げてくる。 いつも明るく笑顔を絶やさない娘がこんな表情をするのは初めてだ。 生まれたばかりのこの子は、こちらの都合で連れ回され
呆然と立ち尽くす俺達の目の前には、かつて山だった物が散らばっている。 山脈が消え去ったことで隠されていた風景が姿を見せ、平になった大地は岩の欠片で埋め尽くされている。コメ:俺たちは何を見せられたんだ?コメ:あれ、山どこいった?コメ:僕もアルちゃんに粉々にされたい!【2万円】コメ:その気になれば世界滅ぼせるだろwコメ:こんな化け物に挑もうとしてたんか勇者ユートルディスは……。コメ:四天王でこれなら魔王どんだけ強いの?w「ママすごーい! お山が無くなっちゃった!」 ナタリアが手を叩いて喜んでいる。 凄いとかそういう次元の話じゃない気がするんだが。「ナタリアちゃん、パパ、少し下がりましょうかっ。ゴミの望みが叶ったようですので、兵隊の皆さんも離れた方がいいと思いますよっ?」 口角を上げて微笑むアルの表情は、氷のように冷ややかな怒りを含んでいた。 瞳の奥に暗い感情が見える。 背中に熱を感じていた俺の体温が氷点下にまで落ちたような寒気を感じた。 アルが斜面を下り始めたので、俺とナタリアもそれにならう。 アルの迫力に気圧され、兵士達も俺達の後に続く。 ランデルだけが瓦礫の山を見つめていた。「ん?」※ん? 足元が揺れた気がした。 いや、やっぱり地面が震えている。 一歩一歩大地を踏みしめる足が振動を感じ取っている。 気になって立ち止まると、その違和感が音となって現れた。 遥か後方からいくつもの爆発音が聞こえる。 それは、とてつもない速さでこちらに近づいてきているようだ。「にゃんぢゃ……ありぇは……?」※なんだ……アレは……? 振り返ると、爆発音とともに砂煙が立ち昇っていた。 瓦礫が次々と火柱のように舞い上がり、こちらに近づくにつれてだんだん大きく弾けていく。
化石燃料の枯渇、森林伐採、その他様々な影響で地球の寿命が尽きかけていた。 人間が生活可能な環境ではなくなる寸前だったと表現した方が正しいかもしれない。 ある日を境に、紫色の葉をつけた新種の樹木が地球上の至る所で発見されるようになった。 その不思議な樹は、魔樹(まじゅ)と名付けられ、あっという間に勢力を拡大した。 後に判明した事だが、ほぼ同時期に宇宙全体でこの魔樹という植物が確認されたという。 魔樹は、月光を浴びると大気中に魔素(まそ)を放出する性質を持っていた。 魔素は生態系を元通りに整え、地球の機能は正常に戻った。 それだけでなく、魔素は膨大なエネルギーに変換する事が可能で、魔素の研究が盛んになった。 魔素には与えられた情報を現実に発現するという特性もあり、まるで魔術の素(もと)かのようであった。 電気回路が魔素回路に置き換わり、魔素を用いた通信技術が発達し、産業革命を超える技術革新が起こった。 一番大きな変化は、延髄にマイクロチップを埋め込むことで人体をコンピュータ化したことだろう。 ヒューマンコンピュータ、通称ヒューコンと呼ばれるようになる。 ヒューコン化した人類は、超長距離間ワープを実現させる事に成功した。 地球上の何処にでも気軽に移動出来るだけでなく、地球とは別の世界へも一瞬で移動出来るようになったのだ。 ここで、驚くべき事実が発覚した。 世界で初めて別の世界へ行った人物の発表によると、地球とは異なる生態系の世界に降り立った瞬間に、特別な力を授かったと言うのだ。 研究が進むにつれ、別の世界を異世界と呼ぶようになり、特別な力はスキルと名付けられた。 異世界への超長距離間ワープの際に、細胞レベルで魔素と結びついた肉体が宇宙空間を一瞬で移動することで、何らかの力が作用してスキルが身につくという説。 異なる世界に降りたつ事で、防衛反応のような何かがスキルを芽生えさせるという説。 全て推論の域を出ない曖昧な報告ではあったが、それら全ての論証は世界を震撼させた。 異世界から地球に戻る際にはスキルを失い、また異世界に行くと別のスキルを授かるという摩訶不思議な現象を解明出来た学者はまだ居ない。 まるで小説やゲームのようだと若者達の間で異世界旅行が人気となり、それに目をつけたどこかの国がワールドキャス
「店長、俺バイト辞めます! 今までお世話になりました!」 昨晩の出来事だ。 俺は、一年半勤めていたコンビニバイトを辞めた。 高校を卒業してから一番長く続いたバイトだった。 俺の日常は、ルーティン化されたつまらないものだった。 朝起きたらストレッチをする。 リビングへ行くと、テーブルの上には母さん手作りのご機嫌な朝食が用意されている。 レースのカーテンを通して柔らかくなった朝の日差しに包まれながら、優雅に食事をする。 食事を終えたら歯磨きの時間だ。 歯ブラシは極細毛で硬めというこだわりがある。 強烈ミントの歯磨き粉が、口の中を爽やかな香りで満たし、一日の始まりを感じさせてくれる。 お洒落好きな俺は、毎朝シャワーを浴びる。 お気に入りのフローラル系の香がついたボタニカルシャンプーで髪を洗うと、とても気分がいい。 鏡の前で髪を乾かしながら、マットなヘアワックスで髪形を自然に整えて、バイト先の近所のコンビニへ向かう。 そんな毎日に嫌気が差した。 バイトの安い給料でも、実家暮らしの俺なら必要最低限の生活は出来る。 しかし、二十歳になり、このままの生活でいいのかと考えるようになってしまった。 食って寝て仕事して、たまに趣味に金を使う。 平凡な生活の中に、ささやかな幸せを感じるのが人生だと頭では理解している。 ほとんどの人がそうであると頭では理解している。 でも、俺は変えたかった。 刺激的な毎日を送りたいと考えてしまったんだ。 今は、ベッドの上で寝転んで束の間の無職を満喫している。 ヒューコンのシアター機能を使い、とある配信を見ているところだ。 ワーキャスの日本キャスターランキング一位、タイキンさんの異世界配信だ。 五万人以上の視聴者が常駐しており、多い時には三十万人を超える。 タイキンさんの推定年収は数十億円と言われている。 タイキンさんは、イグドラシアという異世界にワープし、『炎の勇者』というスキルを授かった。 主な配信内容はダンジョン攻略なのだが、派手な火属性魔法と勇者の身体能力を活かした迫力のある戦闘が視聴者を虜にしている。 時折、異世界の商品紹介なんかも混ぜながら、見ている者を飽きさせない工夫も素晴らしい。 キャスターの収入源は、広告掲載料、サブスクライブ、マネー
ヒューコンの検索機能で、まだキャスターが降り立ったことの無い異世界を検索する。 人気キャスターになる為には、無限に存在する異世界の中から前人未踏の世界を選ぶ事も重要なのだ。 俺は、ラドリックという世界を選んだ。 太陽のような恒星と月のような衛星があり、地球と環境が類似しているようだ。 それほど文明が発達していない世界だが、魔法やモンスターが存在し、地球とは異なる生態系になっている。 タイキンさんが活躍している世界と同じくダンジョンがある事も確認済みだ。 ワーキャスに接続し、自分のアカウントにログインして配信の準備をする。 タイトルは、『初キャスです。異世界ラドリックへ旅立ちます!』と無難な感じにしておいた。 これから配信を始めると思うと急に緊張してきた。 心臓が喉から飛び出しそうだ。「ふぅ、ふぅ、いくぞ……いくぞ!」 意を決して配信をスタートした。 配信画面には、俺の視界に映る殺風景な部屋が映っているはずだ。 今始めたばかりなのに、視聴者が五人も来てくれている。 ここはやはり挨拶から始めるべきだろう。「あ、あー……。えっと、みなさん初めまして。勇太っていいます。これからラドリックという異世界に旅立ちます。応援よろしくお願いします!」コメ:初見です! コメ:リセマラですか? もうコメントが流れている。 誰も見てくれなかったらどうしようかと不安だったので、素直に嬉しい。「今のところリセマラを考えています。俺、運動音痴だし喧嘩もした事がないから、すぐ怪我しちゃいそうで……」コメ:気持ち分かりますw コメ:アタリのスキルだといいですね! 初配信には、荒らしと呼ばれる心無い発言を連投するやからが出ると聞いていたので、温かいコメントばかりで安心した。 荒らしは無視して即ブロックだ。 放置したり構ったりすると、チャット欄で言い争いに発展してしまうからだ。「一応フルタイム配信なので、トイレの時だけミュート推奨しときます。切り抜きは自由にアップロードして頂いて構いません」コメ:体張ってますね! コメ:切り抜き自由はありがたい。 配信中に盛り上がった場面を短い動画にする切り抜きは、キャスターの人気に深く関わってくる。 とぅいっとパラダイス、通称とぅいパラと呼ばれるSNSにアップロードされる事が多
スキル『絶望的な滑舌』を授かったみたいだ。 ヒューコンは、常に体の状態を監視していて、重大な変化が起こった時には自動で教えてくれる。 その機能によって、どんなスキルを授かったのかが分かるのだが、俺が獲得したのは滑舌が悪くなるだけの大ハズレスキルだった。勇太:『絶望的な滑舌』ってスキルを手に入れました。 コメ:ダメそうw コメ:どういうスキルなんですか? 勇太:絶望的に滑舌が悪くなるみたいです。 コメ:どうすんのそれw コメ:終わったな……。 目を開けてみると、高級そうな赤い絨毯が敷き詰められた広場だった。 壁には、美しい女性や騎馬に乗った騎士が描かれた巨大なステンドガラスが何枚もはめ込まれており、そこから色鮮やかな陽光が差し込んでいた。 その下には、鈍く光る金属鎧姿の騎士らしき人々や、暗色のローブを身に纏った怪しい人達が立っていた。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」 声がする方を見ると、黒髪に白髪が混じった偉丈夫が、玉座のような椅子に大股を開いて座っていた。 その男は、仕立ての良い派手な衣装を身に纏まとい、豪勢な装飾品がついた金色の王冠をかぶっている。 筋骨粒々で背が高いのだが、その割りに顔が小さい。 鼻筋が通っており、顎がしっかりした美しい顔立ちをしている。 四十代半ばに見えるその男性は、目が合ったはずなのにしばらく無言を貫く俺を見下ろしながら、心配そうな面持ちで自分のあごひげをなでていた。勇太:勇者じゃなくて勇太なんですけどねw コメ:草生やしとる場合か! コメ:やめい!w コメ:おもろw ふと視聴者数を確認すると、二十一人になっていた。 会話が出来ないのは不安だったが、いざコメントをしてみたら意外と楽しい。「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」 おそらく王様であろう人物が、心配そうにこちらを見ている。 俺がコメントと会話をしていたせいで、まさか自分が無視されているのではと不安になったのだろう。コメ:二回目?w コメ:勇太さんが答えてあげないからw「ぢょうみょ、きょんにちは!」 ※どうも、こんにちは! まずは挨拶と思い口を開いたのだが、自分でも何を言ってるのか分からないほどに活舌が悪い。 コメントの人たちも、ヒューコ
呆然と立ち尽くす俺達の目の前には、かつて山だった物が散らばっている。 山脈が消え去ったことで隠されていた風景が姿を見せ、平になった大地は岩の欠片で埋め尽くされている。コメ:俺たちは何を見せられたんだ?コメ:あれ、山どこいった?コメ:僕もアルちゃんに粉々にされたい!【2万円】コメ:その気になれば世界滅ぼせるだろwコメ:こんな化け物に挑もうとしてたんか勇者ユートルディスは……。コメ:四天王でこれなら魔王どんだけ強いの?w「ママすごーい! お山が無くなっちゃった!」 ナタリアが手を叩いて喜んでいる。 凄いとかそういう次元の話じゃない気がするんだが。「ナタリアちゃん、パパ、少し下がりましょうかっ。ゴミの望みが叶ったようですので、兵隊の皆さんも離れた方がいいと思いますよっ?」 口角を上げて微笑むアルの表情は、氷のように冷ややかな怒りを含んでいた。 瞳の奥に暗い感情が見える。 背中に熱を感じていた俺の体温が氷点下にまで落ちたような寒気を感じた。 アルが斜面を下り始めたので、俺とナタリアもそれにならう。 アルの迫力に気圧され、兵士達も俺達の後に続く。 ランデルだけが瓦礫の山を見つめていた。「ん?」※ん? 足元が揺れた気がした。 いや、やっぱり地面が震えている。 一歩一歩大地を踏みしめる足が振動を感じ取っている。 気になって立ち止まると、その違和感が音となって現れた。 遥か後方からいくつもの爆発音が聞こえる。 それは、とてつもない速さでこちらに近づいてきているようだ。「にゃんぢゃ……ありぇは……?」※なんだ……アレは……? 振り返ると、爆発音とともに砂煙が立ち昇っていた。 瓦礫が次々と火柱のように舞い上がり、こちらに近づくにつれてだんだん大きく弾けていく。
「よし、準備が整ったな! それでは、予定通り見張りは待機地点に移動せよ! ワシらもすぐに出るぞ!」 ランデルの指示で馬車と兵士が移動を始めた。 残った五十人程で四天王を探すようだ。 俺が混ざるはずだった部隊が遠ざかっていく。「いや、ちょっちょみゃちぇ! おりぇもちゃいきぎゅみにひゃいりゅ!」※いや、ちょっと待て! 俺も待機組に入る!「王から褒美を貰った時に、ワシとユートルディス殿でネフィスアルバを倒しに行けと命じられておりましたので、てっきり一緒に行くものかと。もう無理ですぞ?」 無理ですぞじゃないんだが。 予定通りって事は、事前に作戦を考えていたんだよね? 何で作戦会議に勇者を誘わないんだろうか。勇太:作戦失敗です。コメ:知ってたwコメ:勇太の作戦が成功するわけない。コメ:様式美で草コメ:ストレスゲージが真っ赤になってるぞ!w「ぎょひゃんはぢょうしゅりゅにょ?」※ご飯はどうするの?「三日前に立ち寄った村で携行食を買ったではありませんか。これ一枚で二日分の食料になりますので、五ヶ月は余裕を持って探索出来ますぞ?」 ランデルが懐から取り出したのは、クレジットカードくらいのビスケットに似た食べ物だった。 これをちびちび食べながら移動を続けるらしい。 兵士が背負っている大きなカバンの中には、この携行食とやらが大量に詰まっている。 水は山中の湧き水から補充する。 地獄のような登山計画に目眩がしてきた。 騎士が俺の剣と盾を持ってきてくれたが、受け取るつもりはない。「ねえ、ダディ……。もしかして、あの山に登るの? せっかく買ってもらった服が汚れちゃいそう。あたし行きたくないなぁ……」 駆け寄ってきたナタリアが今にも泣き出しそうな顔で見上げてくる。 いつも明るく笑顔を絶やさない娘がこんな表情をするのは初めてだ。 生まれたばかりのこの子は、こちらの都合で連れ回され
ファッションショーから五日が経過した。 ナタリアは少し背が伸びたくらいで、今までのような異常な成長は見られない。 今日のナタリアは白いワンピースを着ている。 兵士に三つ編みのやり方を教わったらしく、色々と工夫を重ねた結果、右耳の上あたりからふんわりと編み始めて横に流したサイドテールになっている。 清楚で上品なお嬢様の出来上がりだ。 アルも先日購入したセクシーニットの組み合わせだ。 ナタリアに三つ編みにされたらしく、ナタリアと逆方向のサイドテールになっている。 アルの膝上に横向きで座っているナタリアと楽しそうに会話しているアルを見ると、歳の離れた姉妹に見える。 歳といえば、二日前にナタリアの成長は普通なのかと聞いてみた。 ランデルは、早すぎると言っていた。 自分がナタリアと同じくらいの時は、友達の誰々とこんな遊びをしただのと昔話を始めた。 あまりにも長かったので口を封じて無理矢理やめさせた。 アルもナタリアと同じだったらしく、生後五日程で今のナタリアくらいまで成長したのだとか。 そこから一か月かけて大人になり、その姿を維持し続けているらしい。 気になったので年齢を聞いてみたのだが、教えてもらえなかった。 俺より年上とだけ知る事が出来た。 ランデルは、「ワシよりは年下ですかな?」と聞いた瞬間に平手打ちされていた。 アルの動きがあまりにも速く、パシィンという乾いた音しか聞こえなかったのだが、ランデルの左頬に真っ赤な紅葉が浮かび上がったので分かったというのが正しい。 日本では女性に聞いてはいけない事ランキング一位の質問なので、ランデルの左顔面が骨折したかのように腫れあがったのも仕方がないのかもしれない。 翌日には元通りのイカつい顔に戻っていたが。 馬車は森を抜けて高原地帯を走っている。 丈の短い雑草に覆われた大地は緩やかに起伏しており、所々に岩が露出している。 路面は段々と荒れてきて、馬車の揺れがお尻の皮膚を削り取ってくる。 尾てい骨と腰が悲鳴を上げ始めた。 そう
「パパっ! ちょっと来て下さいっ!」 試着室の方からアルの声がする。 振り向くと、アルがカーテンの隙間から顔を半分だけ覗かせていた。「どうでしょう?」 カーテンが開くと、美しい天女が現れた。 絵画の中から飛び出して来たのだろうか。 胸元までが灰色で、そこから下が黒色の袖がないニットだ。 首元はタートルネックになっており、丸出しの腕が艶かしい。 破壊力抜群な暗色の服がピンク色のウェーブがかった髪を際立たせている。 下はタイトなベージュのパンツで、スラリとした脚線美が強調されている。コメ:勇太さん、これ買いです!【二万円】 コメ:可愛すぎて一瞬気を失ったわw【一万円】 コメ:アルたそ似合いすぎ!【二万円】「きゃいみゃしゅ!」 ※買います! 何を迷う必要があろうか。 こんなもん買いでしかない。「ダディ、どっちがいいかな? 大きくなったら着る服なんだけど……」 天使が二択を迫ってきた。 一つは袖と胸元に白いレースのフリルがついた可愛らしい薄いピンク色のワンピース。 一つは襟の無い赤いシャツと黒いレザーのスカートという大人びたセクシーな組み合わせだ。 成長したナタリアの姿を想像しながら選ばなければならない。 どっちが似合うかと問われた時の回答に正解は無いが、世の男達にとって永遠の課題である。 無難なのは、ナタリアがどっちが好きかを聞いて、俺もそっちが好きと答える安定パターンなのだが。勇太:みんな、力を貸してくれ! コメ:ワンピースは白いの買ったから赤い方かなぁ? コメ:どっちも買うのが男だぞ! コメ:お前ら大丈夫か? 可愛い系とセクシー系のどっちに成長するかの重要な分岐だぞここ。ちなピンク一択! コメ:ギャルゲー脳は帰ってどうぞw コメ:俺もどっちも派。 コメ:俺達の勇太はどこに行っちまったんだ? 脳なしのお前は何も考えずにここまで来たんだろ! 迷う前に買え! 勇太:そうでした……。俺
プァルラグを倒した俺達は、食事休憩をする事になったのだが、ランデルから待ったがかかった。 プァルラグの肉は野生味が強いので、個性を活かすには鍋にするのが一番らしい。 ベースのスープにマロミスという調味料を使うと格別な美味しさになるという。 この近くにはヨランザの街があり、調理役の兵士がプァルラグを解体している間に少人数で買い出しに行くというのがランデルの提案だ。 俺としては、持てるだけの肉塊を街に運んで、店に調理をお願いしたかった。 みんなで街に行けば宿に泊まれるからだ。 しかし、ナタリアに美味しいプァルラグ鍋を食べさせたいと張り切っていたランデルを見たら何も言えなかった。 ランデルと名乗りを上げた騎馬兵五人がヨランザの街に行くことになったが、やりたい事があったので俺、アル、ナタリアも加えてもらった。 御者も合わせた馬車組と騎馬兵の計十人で買い出しに向かう。「拠点の指揮はノイマンに任せる! では出発じゃ!」 馬車が行軍時より少し速い速度で走り始めた。 少し先にある脇道に入って数キロ進めばヨランザの街があるらしい。「ねえ、パパっ? どうして急に街に行きたくなったんですかっ?」「にゃちゃりあにょふきゅをきゃっちぇおきょうちょおみょっちぇにぇ。おりぇやありゅにょびゅんみょひちゅようぢゃりょ?」※ナタリアの服を買おうと思ってね。俺やアルの分も必要だろ? 騎士がナタリアの服を作ってくれているとはいえ、お洒落をしたい年頃の子には物足りなさを感じるだろう。 俺もこの世界に来てからずっと同じ服装だしな。 夜営の時に魔法使いが水魔法と風魔法で洗濯してくれるのだが、毎日同じ服というのは生活のリズム的に精神衛生上良くないと思う。「わあっ、新しい服を買ってくれるの! ダディありがとう!」「パパっ! ありがとうございますっ!」 まるで馬車の中に花が咲いたかのようだ。 可愛い娘と美人な妻の喜ぶ姿がこれほど良いものとは。 嬉しさと誇らしさの中にむず痒い気持ちがある。
ワーキャスについて語るスレ【第1812世界】052 名前:異世界好きの名無しさん おい、タイキンがパーティメンバー募集してるぞ!053 名前:異世界好きの名無しさん 見た見た! 三人までらしいけど、選ばれたらタイキンバフで勝ち組確定じゃね?054 名前:異世界好きの名無しさん 四窓推奨みたいになりそうだしな。タイキンの視聴者数分の広告掲載料がそのまま入ってくるんだから、宝くじ当てるみたいなもん。055 名前:異世界好きの名無しさん タイキンさんと一緒に商品紹介してみたい!w056 名前:異世界好きの名無しさん >>055 タイキンキッズさんお疲れっす!057 名前:異世界好きの名無しさん 募集した奴どんくらいおる?058 名前:異世界好きの名無しさん >>057 したで?059 名前:異世界好きの名無しさん >>057 不細工ワイ応募してしまう060 名前:異世界好きの名無しさん タイキンはイケメンやしな。実際そこで人気取ってるのもある。061 名前:異世界好きの名無しさん >>059 他にもチャンスあるって!062 名前:異世界好きの名無しさん >>061 まだ落ちてねーわ!063 名前:異世界好きの名無しさん ワロタwww064 名前:異世界好きの名無しさん でもさ、チームで売ってくんならビジュアル重要じゃね?065 名前:異世界好きの名無しさん それはそうw066 名前:異世界好きの名無しさん >>059 残念だったなw067 名前:異世界好きの名無しさん >>066 いや、だから勝手に落とすなってw068 名前:異世界好きの名無しさ
おそらく、角がある方がオスで爪が長い方がメスだろう。 迫り来る二体のプァルラグに怯むことなく、ランデルは巨大な剣を振り上げた。 大きく左足を前に出すと、込められた力で大地が砕けた。 仰け反らせた背をバネのようにしならせ、踏み込んだ力を全身で爆発させた。「ぬうんっ!」 ランデルが大剣を振り下ろすと、目の前の地面が激しく炸裂した。 放たれた衝撃波が土煙を巻き上げながらプァルラグをに迫る。 驚いたプァルラグは急ブレーキをかけて立ち上がったが、ランデルの強力な一撃を受けると後方に吹き飛ばされた。コメ:ジジイすげえええええ!【四千円】コメ:タイキンより強くね?w【二千円】コメ:ゴミ呼ばわりされてるとは思えないwコメ:ランデルかっけえな!コメ:人間業じゃねえぞw【二千円】 ゆっくりと起き上がったプァルラグは、警戒するようにランデルを睨みつけている。 下手に動けないその様子がランデルの剣撃の威力を物語っていた。 四足歩行の時も迫力があったが、立ち上がったプァルラグはその比ではない。 目の前に二本の大木が現れたかのようだ。「ダディ、ちょっと借りるね!」「ん? あ、ちょっちょ……」※ん? あ、ちょっと…… 俺の手からルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを奪い取ったナタリアが前傾に身を屈めて溜めを作った。 ナタリアの後ろ髪が鞭のように空気を打つと、目の前からその姿が消えた。 放たれた矢のように風を切り、一直線にプァルラグへと向かって行く。コメ:え、何してんの?コメ:ナタリアちゃんが危ない!コメ:ランデル頼む、止めてくれ!コメ:勇太お前マジでゴミだな。コメ:ナタリアたそ戻って来てー!「きょりゃ! にゃちゃりあ、みゃちにゃしゃい!」※コラ! ナタリア、待ちなさい! 俺の叫びも、伸ばした手も、ナタリアには届かなかった。
馬車は、豊かな緑に囲まれた広い街道を走っている。 木々の間を通り抜ける風は青々とした草木の香りを含み、大きく息を吸い込むと気分が落ち着くような気がする。「蛇がとぐろを巻くように生えているのが蛇木(じゃぼく)、妖精の羽のように一対の半透明の葉があるあの花はフェアロワイス、茎がまん丸と大きく傘が屋根のようになっているキノコが家茸(かたけ)、家茸の茎には入り口があって、中に入った生物を養分にするんじゃ」 ランデルが外を指差し、ナタリアにあれはこれはと教えている。 くしゃりと目尻に横皺を寄せた青い鎧の老兵は、なんとも好々爺然としている。 ナタリアもランデルに懐いているようで、おじいちゃんと孫のような関係性になっていた。 父になって早六日なのだが、色々と変化があった。 最近の子供は成長が早いと聞くが、俺の娘のナタリアは小学校五年生くらいの身長になっている。 飛んだり跳ねたり走り回ったりと元気いっぱいだ。 髪も肩まで伸びて、癖のない真っ直ぐな黒髪が光を浴びて天使の輪を作り出している。 アルに似て整った顔立ちだが、つり目がちで勝気な雰囲気がある。 子供らしい喋り方ではあるが、もう普通に話せるようで、いつの間にか兵士達のアイドル的存在になっていた。 昼の休憩と夜の野営の時、兵士達はナタリアを奪い合うように話したり遊んだりしている。 裁縫上手な兵士がナタリアの服を作ってくれているのだが、有り合わせの布で作った間に合わせなので、デザインはあまりよろしくない。 ナタリアは、アルのことをママと呼び、俺のことをダディと呼び、ランデルのことをハゲちゃんと呼ぶようになった。 アルの血を強く受け継いでいるのか、アルのように炎を操ることが出来るようだ。 また、俺とは違い身体能力も高いようで、棒切れを使った模擬戦という名のチャンバラごっこではあるが、ノイマンと互角以上に戦っていた。 次はハゲちゃんを倒すと意気込んでおり、非常に愛くるしい。 反抗期に殺されないことを祈るしかない。 そして、俺にとって重大な問題が発生している。「にゃあ
「しゅみゃにゃいぎゃ、みじゅをみょっちぇきちぇきゅりぇにゃいきゃ?」※すまないが、水を持ってきてくれないか?「はっ!」 アルの体から大量の水分が汗として放出されてしまっているので、心配そうに見守っていた兵士に水をお願いした。 ほっと安堵の息を吐き、アルの額に滲む汗を手拭いで吸い取ってやる。 アルは、長いまつげをたくわえたまぶたを伏せると、弱々しくへにゃりと笑った。 その目元には涙が滲でいた。「ありが……とう……ございます……。良くなった……気がします……」 再び苦しそうな表情を浮かべたアルのひたいから、大量の汗が噴き出す。 アルを抱える俺の腕も湿ってきていることから、症状が治まっていないのが分かる。 明らかに強がりを言っている。 ハイポーションの効果が出るのには時間が掛かるのだろうか。 いや、そんなはずが無い。 俺が溺れた時、ランデルは俺にハイポーションを飲ませてすぐに、俺が助かったと確信していた。 万能薬でも治せないような絶望的な状態なのかもしれない。「勇者殿、水をお持ちしました!」 兵士が水を持ってきてくれた。 水差しからコップに注いでもらい、アルに水を飲ませる。 一瞬安らいだような表情を浮かべたが、すぐに歯を食いしばるように苦しみだしてしまった。 アルの体は熱を持ち、薄らとピンク色に染まっている。 胸部が苦しそうに上下し、首筋から流れた汗が胸元を伝う。 俺に癒しを与えてくれる唯一の存在が目の前で苦しんでいるのに、これ以上何も出来ないのが歯痒い。 水を飲ませて、汗を拭いてあげることしか出来ない。「ぢょうしちゃりゃ……」※どうしたら……「勇者……様……。手を…&hel